午前11時05分。 国民生殖健康定期健診(国生健)第3内診室。
婦人科の代表的な椅子、内診台が一台あるシンプルな部屋だが、この部屋は特殊だ。
1日に十数人の女性が、事務的に案内され、抵抗することも許されず同じ内診台、同じ恥ずかしい姿勢で固定され、強制的に発情薬を注入され、叫びながらも検査が淡々と行われる部屋。
午前中だけで既に8人目。最近は毎日この手の処置で一日が終わる印象だ。
空気は甘く、重く、濃厚な女性の蜜の匂いで満ちている。
換気扇を全開にしても、甘ったるい生臭さが壁や天井、床に染みつき、まるで発情した雌の匂いが部屋全体に広がっているようだ。
芳香剤はもとろんあるし、朝一番に換気したはずなのに、午前11時で既にこの匂い。
床も椅子もシートも、毎日何度もアルコールで拭いているのに、微かに残る粘液の跡が光を反射している。
ここは、女性を「生殖可能な器」として処理する工場のような空間だ。内診台はさも女性に配慮したピンク色をして柔らかいフォルムをしている。しかし、ひとたび座れば、女性にとってこれ以上ない恥ずかしい姿勢を強制する椅子なのである。作業が終わるまで逃げることは出来ない。
今日も淡々と女性がこの部屋に連れてこられている・・・。
私は白衣のポケットに手を入れ、今日の予約リストを最終確認した。
佐藤美咲さん、29歳。次の患者で4人目。中小企業総務部勤務、独身、初回受診。選択コースは静脈鎮静法。
国生健で求められる処置は2つある。 1つ目は分泌物採取。女性機能が問題ないかの確認と分泌物の成分検査。 2つ目は恥垢クリーニング。自分ではなかなかケアしきれないデリケートゾーンの垢を洗浄していく作業だ。
そして、処置の際は、静脈鎮静下と覚醒下の2種類が選択できる。
覚醒下処置は患者が覚醒状態ですべての処置を行う。鎮静処置は少しぼーっとする薬を静脈注射で点滴しながら行う。
メリットは理性、いわゆる“恥ずかしい気持ちが薄れること”と“処置の際の記憶がなくなること”。忘却効果が大きいと思っている。患者さんには説明されないデメリットは鎮静する影響を加味して、発情剤の投与量が通常の1.5倍となることだ。
これは、胃カメラの静脈鎮静と似た選択肢ではあるものの、処置の都合上、身体の感覚は残るように設計された薬が使用される違いがある。
この処置は事前に既往歴の確認が必須になる。静脈から麻酔薬を注入するため、通常のリスク以外にも強い刺激で心拍が高い状態が継続する処置になるからだ。
【パート2へ続く】
